空しか、見えない
 ルーは、サチからのぞむへの愛は終わったのだと決めつけた。
 きっと、その通りなのだろう。
 だからといってルーと結婚するだなんて、今の自分には、考えられない。
 のぞむは、冷えた料理を口にして、ミネラルウォーターで飲み干す。

「ルー。俺たちは、ただルームシェアリングをして、助け合ってきただけだったじゃないか。出会った頃のあんたはさ、腹にこいつがいて……そうだろう?」

「だから何? 私たちは、男と女で暮らしてる。私はのぞむが日本に帰ったとき、よくわかったよ。のぞむのいない生活は、空虚だった。In my heart」

 そう言って、自分の胸を押さえ、つけ加えた。

「心に、大きな穴が開いたみたいに、寂しかった」

 いつもの眼鏡をしていない。潤んだ目で、のぞむを見る。そんな目で見ないでくれと思う。ずるいじゃないか。いや、ずるいのは俺か。何でも宙ぶらりんにしたまま、自分の都合で物事を解釈してきてしまった。それで、精一杯のふりをして。
 サチが、こんな俺を見放すのは正解だ。そのうちニューヨークでのかけがえのない仲間だったルーたちも、きっと自分の元から去っていく。
 早く元気にならねばいけないと思う。冷えた料理をまたひと口、のぞむは水で飲み込んだ。
< 522 / 700 >

この作品をシェア

pagetop