空しか、見えない
「ううん、今日はひとり。純一は、今レッスン中だったのかな。ちゃんと泳いでいますか?」

「まあね、だけど、なかなか泳ぎに行くチャンスがなくってさ」

 婚約者が彼のすぐ後ろで聞き耳を立てている様子を、つい想像してしまう。

「わかった。じゃあ、またね。千夏が、全然来ないものだから、ちょっと気になったの」

「サセ? これから食事?」

 純一が、そう問いかけてきた。
 少し返事を躊躇したが、
「まあ、そうかな」と、佐千子は答えた。

「OK、じゃあ合流しよう」

 ずいぶん、張り切った様子でそう誘われた。

「いいの?」

「たまには息抜きしないとさ。前に行ったカフェ、覚えてるでしょ? あそこで、待ってて」

「よかった、私あそこのサラダ、食べたかったんだ」

「そうだと思った」

 純一の明るい声に、佐千子の心がますます華やいだ。
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