空しか、見えない
 友達ってこんなにいいものだったんだと、最近とみに思うのだった。
 どうしてなのだろう。ついこの間まで、なぜか自分は、いつでもみんなに遠慮していた。こんな時間に電話をしても迷惑なんじゃないか? 今頃は、忙しいんじゃないか? 
 千夏が自分に電話をしてくるのは大抵深夜だったけれど、長電話に付き合うのは正直言うなら少し憂鬱の種だった。翌朝には、仕事もある。
 けれど、最近はそんな電話も来なくなって、何だか寂しいのだ。
 岩井海岸に行った頃までは、千夏はいつもと変わらず見えていたが、一体、どうしてしまったのだろう。
 急いで髪の毛を乾かして、斜め掛けのバッグをかけて、スニーカーを履いた。ジムへ行く日は、よほど気を遣う約束がなければ、スーツの足下はスニーカーで行っている。
 ハイヒールを脱ぎ、フラットな靴を履く。ただそんなことが、本当に清々しい気分を運んでくるのだ。
 もう一度千夏に電話をしてみたが、やはりつながらなかった。純一も、来るよと伝えたかったのに。
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