空しか、見えない
 メーク道具はないから諦めて、グロスだけつけて待ち合わせの場所へ行くと、もう純一が白ワインを飲みながら、待っていた。
「こっち」と、手をあげてくれる。

「サセ、ずいぶん本格的な格好じゃない。やるとなったら、サセは真面目だからな」

「だって、どう考えたって、一番出遅れそうなのは私なんだもの。ハッチの頃だって、みんなの足をどれだけ引っ張ったかわからないし」

「そうだったかな」

 Vネックのセーターの首に、淡いグレイのコットンのマフラーを巻いた純一は、優しく笑ってくれた。
< 527 / 700 >

この作品をシェア

pagetop