空しか、見えない
「考えてみたら千夏なんて、きっと今だってどんどん泳げるんだろうな。だから、まだ本腰入れなくていいってだけなのかもしれない」

 そう言っている矢先に、佐千子のバッグの中で、携帯電話が鳴った。
 慌てて取り出す。表示を見せる。

「あ、噂をしたら、千夏でした。もしもし、もう、全然ジムに来ないから、電話しちゃったよ」

「ああ、サセ? 行ってたんだ」

 ずいぶんトーンの低い声の奥で、「お疲れさまです」「お先に失礼します」という、聞き覚えのあるやり取りが響いていた。
 一瞬、間を置き、佐千子は問いかけてみた。

「ねえ、千夏、今どこにいるの?」

「うん、私も泳いでいたところだったよ」

「泳いだって、どこで?」

 佐千子の問いかけも終わらぬうちに、千夏の声が返ってきた。
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