空しか、見えない
 銀座のど真ん中にやって来るのなら、コートでも着てきたらよかったのだが、今日もジムへ行くつもりだったので、薄手のショートダウンを着ている。前開きのジップアップのカーディガンに、グレーのスラックスという格好で、ぺたんこの靴に、鞄も斜め掛けだ。
 ショールームの灯りが消えてしばらく経ち、出口に立っていると、女の人たちの賑やかな声が聞こえてきた。

「お疲れさま」

「明日、またでーす」

 軽やかな挨拶が続き、やがて佐千子には華やかに着飾った女性たちの後ろ姿が目に入った。
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