空しか、見えない
「千夏」

 壁にもたれて立っていた体を、ようやく起こす。
 佐千子の声に驚いて振り返った千夏が、すぐに眉をひそめる。

「サセ、一体、どうしたのよ? こんなところで」

「だって、全然返事もしてくれないし」

 千夏は、首をゆっくり左右に振る。

「それに、サセさ、言いたくないけど、それ、銀座に来る格好じゃないでしょう」

「うん、わかってる」

「あら、誰か知り合い?」

 同僚たちの声に、千夏が適当に受け答えを返し、また佐千子の方を見てため息をついた。
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