空しか、見えない
「どうする? 私は白ワインにするけど」

 千夏はよく来るのか、メニューも見ずにそう言い、佐千子に問いかけてきた。

「私は、だったらホットワインって、あるかな? ずっと立っていたから、体が冷えちゃった」

 両手をこすり合わせ、息を吐きつけるのを、千夏はじっと見ていた。

「なんで?」

 そう訊いてきた。

「どうしてサセってさ、そうやっていい奴なわけ? それが頭に来るんだよ。怒ればいいじゃん。寒い中で待たされたとか、電話にも出ないから腹が立つとかさ。私をばかにすんなとか、言えばいいじゃん」

 運ばれてきた白ワインに、口もつけずに千夏は言う。
 佐千子は、湯気のあがるカップを両手で包む。温かさにほっとする。
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