空しか、見えない
「怒ってるのは、私じゃなくて千夏なんじゃないの。私は別に怒ってないもん。ただ心配だっただけだよ」

 千夏は、テーブルに肘をつき、ぐーに握った右手を顔にあてた。

「怒れっての。怒ってくれた方がずっといいよ。きっとのぞむだって、そう思ってたはずだよ」

 のぞむの話をされると、佐千子の心は翳ってしまう。ようやく千夏とふたりで、顔を合わせて落ち着いて話ができると思っているのに、それとこれとは話が別じゃないか。怒れと言われるなら、そここそが理不尽だと感じた。
 でも、何より千夏が元気でいてくれたのがうれしかった。千夏はすぐに塞ぎこんだり、自暴自棄になるから、しばらく音信不通になっただけで心配になるのだ。

「サセといるとさ、私、いらいらするんだもん。どうしても自分と較べちゃって、どうしていつもあんただけがそうやって心穏やかに生きていられるのか、わかんなくなる。自分ばっか、だめな人間だと思っちゃう。こんなだから男にフラれてばっかなのかとか、いつも適当に振り回されて終わりなのかとか思う。今度こそ、まともになってやるって思うのに、私はいつもだめ」
< 535 / 700 >

この作品をシェア

pagetop