空しか、見えない
「あ、ごめん」

 佐千子の声に、環は顔を拭う。

「いや、全然ごめんじゃない」

「ねえ、ちょっとそこのふたり、何やってんの? 泳いでいる人の邪魔ですよ。大体ここはリゾート地じゃなくて、ジムのプールなんですよ」

 千夏はすっかり気を取り直したかのようにそう言ってからかいに来て、また隣のレーンで泳ぎ始めた。平泳ぎだけじゃなく、クロールも、バタフライも完璧にこなす。
 ねえ千夏、知ってる? あなたはね、すっごいかっこいいんだから。私みたいなのろまとは大違いなんだから。ばしっとしてちょうだい、胸を張ってね。
 泳いでいる千夏の方へ、佐千子は心の中で呼びかける。

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