空しか、見えない

 芙佐絵は、人の気配のなくなった職員室の席で、お弁当箱を広げる。
 学校では、学年毎の職員室になっていて、7時を回ったこの時間帯になると、残っている先生方は部活の顧問くらいになる。
 箱の中には、今朝作ったサンドイッチがたくさん並んでいる。

「おお、こんなところで夕飯ですか」

 例の口うるさい体育の教師、吉本が、この2年の職員室を覗き、声をかけてきた。さっきまで同じプールにいたが、彼は部活動の指導にあたっていて、端の1レーンを芙佐絵が借りていたのだった。

「違います。おやつです。帰ったらまた私、しっかり食べるんです」

 体育の教師は、コート姿なので、もう帰宅するのだろう。
 眼鏡の奥からじっと弁当箱の中を覗いてくるので、

「食べます? よかったら」

 そう誘ってみると、彼はためらいもせずに横の席に座ってきた。
 勧めると、そっと手を伸ばして、サンドイッチをつまみあげ、口に運ぶ。
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