空しか、見えない
「うまいなあ。卵サンド、大好きなんだな」

 ひと口かじり、その後口の中へと収め、丁寧に咀嚼する。いつも、がさつだがさつだと思っていた相手だったが、指の動きは繊細に見えた。

「あの、珈琲でも入れましょうか?」

 一瞬でもそんなことを感じた自分に照れて、芙佐絵が立ち上がると、彼も遠慮をしない。

「うん、じゃあせっかくだからお願いします。ストレートで、珈琲は濃い目が好みです」

 そのひと言がやっぱり余計だと思いながらも、職員室の片隅に準備されたポットで、ドリップ式のコーヒーを入れる。
 まるで琥珀の色が漂うように、良い香りが部屋の中に広がる。
< 543 / 700 >

この作品をシェア

pagetop