空しか、見えない
「なんか、静かでいいですね」

 突然、吉本が、そう言い、芙佐絵は我に返った。

「ええ、最近気づいたんです。学校の中にもこんな時間が訪れるんだなって」

「それにしても、渡辺先生、泳ぐの、よく続いていますよね。本気なんだな」

 吉本が、手渡したコーヒーを飲みながら言う。

「もちろん、本気ですよ。絶対完泳! 目指していますから」

 子どもたちの真似をして、片腕でよいしょ、と力こぶを握ると、その腕が当たり、眼鏡が床に落ちてしまう。
 吉本が拾って、ポケットのハンカチで拭ってくれた。
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