空しか、見えない

 その頃、本当にがんばりすぎていたのは環だった。
 環は、言ってみるなら、自他ともに認める筋肉フェチだった。
 元々、肉体の作り込みに余念がなかったのに、遠泳が決まってからは、その努力にさらに磨きがかかった。朝は、出勤前に自宅から玉川川べりのランニングコースを5キロから7キロ走る。シャワーを浴びて自転車で出勤する。
 帰りはまたジムへ寄る。
 シャワーを浴びるときに鏡で自分の体を見ると、環は、完璧だ! と感じる。上腕筋も、胸筋もいよいよ理想的な形に漲って、腹筋も見事に割れている。
 それを確認すると、おもむろにプロテインを飲む。
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