空しか、見えない
 環は、別にモテたくてやっているわけではない。それに、自転車メーカーである環の会社には、自分のような人間は、珍しくもない。
 時々会社の仲間たちと合コンをすると、女たちは大抵すぐに「きゃー、カッコいい!」などと大騒ぎする。中には、シャツの上からあからさまに筋肉を触ってくる女たちもいる。
 しかし、1時間もすると、だんだん場が白けてくる。
「なんか、つまんない」と、はっきり口にした女がいたが、たぶんその通りなのだろうと環も思う。筋肉は見事でも、話はつまんない男たちなのだ。
 別に、勝手に言ってりゃいいと思う。つまんないのは、そんな女たちとは気が合わないからなのだ。
 真剣に、心から分かり合いたいとは思えないからだ。サセのように、素朴にひたむきな相手ではないからだ。無神経に筋肉を触ってきたりするからいけないのだ、と環はよく開き直る。
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