空しか、見えない
 遠泳が終わったら、環はサセに本気でプロポーズするつもりだった。
 この頃、懸命に泳いでいるサセは、時々環に指導を求める。どうしたらもっと早く泳げるのか、と、相変わらず泳ぎが苦手なサセは模索しているようだった。

「ねえ環、どうしたら、そうやってぐいぐい進めるの?」

 真顔で相談されるだけで、心が上擦ってしまう。ぐいぐい進めるの? そんな無邪気な言葉がサセにはいつまでも似合うから、不思議だ。
 環は、遠泳までに万全の体力に仕上げておきたかった。
 だから、朝の起床時間をいつもより30分早くして、ジョギングを10キロに延ばした。よほど前夜が遅かったり、台風が来ていたりしない限りは、毎日ノルマを果たした。
 毎日10キロ走るなんて、フルマラソンの選手だってなかなかしないことだろう。
 けれど環は、そんな自分が好きだった。そんな風にがんばることしか、今の自分が、サセのためにもできることはないような気がしていたのだ。
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