空しか、見えない

 パリのマリカも、休みの日には泳いでいた。
 東京のハッチたちが、よく顔を合わせ、一緒になって泳いだり、バーに立ち寄っているのが羨ましかった。
 マリカは、元々、泳ぎはそんなに苦手ではない。赤ん坊の頃からスタイルをよくするためにとスイミングスクールに通わされていたので、水の中では自由だった。
 でも、フランスのジムでひとりで泳いでいると、水音しか響かないあまりに洗練された静けさに、様々な記憶があふれてくる。
 フランス人の父と離婚した母は、マリカをタレントかモデルにさせようと、必死だった。いわゆるステージママで、遠泳への参加も認めようとしなかった。
 日焼けや肌荒れをさせたくないというのが理由だった。
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