空しか、見えない
 その頃の一番の相談相手は、純一だった。
 ピアノのコンクールを間近に控えた純一の家では、逆に両親が、ピアノの講師を説得してくれたのだそうだ。
 きっと息子にとって、かけがえのない経験になるはずだから、と。

「純一はいいね。ママたち、ちゃんとわかってるもんね」

 帰り道に待ち合わせしながら、時にはふたりで並んで泳ぎながらよくそんな話をした。

「うちは、パパもいないからかな。ママは、言い出したら聞かないんだ」

 マリカがふて腐れたようにそう続けると、純一がこうアドバイスしてくれたのだ。

「帰ったら一所懸命やるからって、言いなよ。後はちゃんとやるから、行かせてって言うんだよ、マリカ。親はさ、子どもたちがそのまま道を外れていきそうで、怖いんだよ」

 中学生の頃から純一は、どこか大人みたいだったのを思い出す。
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