空しか、見えない
 休憩をはさみ、1キロほど泳ぐと、マリカはジムでシャワーを浴びて帰り支度を始めた。
 携帯電話に、恋人からの着信を見つけ、うれしくてコールバックした。

「ボンソワール」

 フライトのスケジュールがすれ違ったのもあるが、ここ2週間ほど、会えていなかった。
 心が上擦る。今日こそ、会えそうだ。急いで帰って、部屋にデイジーを飾ろうと考える。

「ボンソワール、マリカ? 今どこにいるの?」

「プールで泳いでいたのよ。でも大丈夫、すぐに帰るわ」

「トレビアン、そんなに泳いだりして、それ以上魅力的な体になったら、どうするつもりだい?」

 フランス人は電話口でも平気でそんな甘い台詞を口にする。気安く言っているのはわかっていても、耳に響く甘い台詞が心を砂糖漬けにする。
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