空しか、見えない
「俺はまだそんな年じゃない」

 真っ先に反論したのは環で、バーだというのに大きなジョッキに入れてもらったビールをやけ酒のようにがぶ飲みする。

「そうよ、スポーツ選手だって、まだ伸び盛りじゃないの」と千夏も応戦する。

「まあ、厄年の話って、時々ここでも出ますよね」

 カウンターの内側にいる、制服姿のまゆみは、父親であるマスターに話の矛先を向けた。それが、彼女が客のあしらいに困っているときに助け舟を求める方法であるのが、佐千子にはもうわかっている。

「まあ、いろいろな意味でちょうど慣れや疲れが出る頃なのかもしれませんね。最近では、女性もお仕事を持たれる方が多いので、厄年は男性と同じ年齢になっているという話も聞きますよ」
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