空しか、見えない
「ああ、なんだか怖くなってきた」

 千夏は、豊かな胸を揺らしながら両腕を体に巻き付ける。
 だが純一は、まるで気にしていないらしく、肩をすくめる。

「お祓いより、俺たちに必要なのは相応の準備だと思うね。明日、サセと下見に行ってくるからさ。報告は、次号サセ新聞をお楽しみに」

 佐千子も、純一と同じ気持ちだった。
 生きていると、いろいろあるのが当たり前だと思っているふしもある。けれど、今はみんなに共通の目標がある。とにかく8月1日の遠泳を成功させたい。そのためには、隊長の環には何とか足を治して来てもらいたいのだ。

「同じの、お願いします!」

 環が、飲み干したジョッキをまゆみの前に出したので、佐千子は、それを取り上げた。
< 569 / 700 >

この作品をシェア

pagetop