空しか、見えない

 純一の運転する英国の四輪駆動車は、窓から切り取られる景色が、特別に広々として、空気も澄んで見える。室内には、キース・ジャレットのカルテットによるライブが、静かに流れている。白いボンネットに空を映し込みながら海の上をまっすぐに続くアクアラインを進んでいった。

「この道通るの、私、はじめて」

「ほんとに?」

 助手席で佐千子が告白するのを、ハンドルを握った純一は、驚いたように訊き返す。

「だって、昔はなかったでしょう? いつ頃だったかな、できたの」

「俺ははっきり覚えてるんだ。10歳の時だったはずだよ。うちの父親って、結構、新しい物好きでさ、開通したらすぐに通ったんだ。アクアライン通過が目的のドライブ。装備したてのナビを示して、見てろよ純一、この車、海のど真ん中を、今延々と走ってるぞって、はしゃいでたよ」

 純一が、目尻を垂らしてそう話す。同じ音楽家の父親を、彼は心の底から尊敬しているのがわかる。
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