空しか、見えない
 どんな顔で戻ってくるかと思ったら、純一は無表情で、運転席の扉を開けて、もう一度ハンドルに手をかける。
 黙って、走り始める。今度は、ゆっくりした速度をキープしたままだ。

「ごめんね」

 彼の真剣な横顔に、佐千子はそっと謝る。

「私が、煽っちゃったようなものだもの。罰金、払うね」

 純一は、なお黙っている。バックミラーを覗き込むと、急にアクセルペダルを再び踏み込んだ。そして、ぷはーっと、止めていた息を吐いた。
 あははは、と声を出して笑いながら、ハンドルの表面を手で叩く。

「なあ、サセ、俺も、これで厄が終わり! イエイ」

「えー、純一、何なの? ほっとしちゃってるの?」

「交通違反で済むくらいならさ、御の字だよ。サンキュー、義朝」

 顔をあげると、まるで空を見上げるように彼はそう言った。朗らかに大声をあげて、そう言った。

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