空しか、見えない
 そういう気配りをする友人を、佐千子はとても誇らしく思った。のぞむにも、自分にも、まだそこまで相手を思いやる余裕がないように思った。いや、今ののぞむはわからないけれど、少なくともふたりは一緒にここまで成長したわけではないのだ。

「で何、本当にやるってかい?」

 おじさんが、半分くらい飲んだ水の蓋をしめる。

「ええ、まあ、そのつもりです。ただ、次々負傷者が出てしまって、憂えは尽きないんですけれどね」

と、純一は続ける。

「そうかい」

 何を話してもごじべえのおじさんはにこにこしている。そういえば、昔からずっとそんな顔をして、人の話を訊いてくれた。まず受け入れる、という感じだ。
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