空しか、見えない
「一応、船の手配の方は、できるよ。漁船だったら、1日1万円も出せば出てくれる。漁師がついてくれれば、潮の流れは間違いなく読めるだろうしね。それで、コースはどうするの? 中学生の頃の大遠泳のコースにするのか、体育大の学生たちが挑戦している2時間コースにするのか?」

「行けますかね、2時間」

 純一は、さらに質問を続ける。

「あの、失礼ですけど、ごじべえのおじさんはまだ2時間、泳げます?」

 にこにこ顔が、始めて固まった。
 せっかく締めてあったペットボトルの蓋を外して、また水を飲んだ。

「そりゃ、泳げと言われたら泳ぐよ。時々は、泳ぐからね」

 おじさんは、少し向きになって、そう答えた。
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