空しか、見えない
「じゃあ、決まった」

 純一は、そこをつく。

「決まったって何だよ?」

「いや、隊長の環がね。骨折しちゃったんですよ。だから、本番でも治らなかったら、おじさんに先導お願いします」

「なんだよ、やぶから棒に」

「やっぱ、2時間コース行きます。あの頃のままじゃなくて、もっと遠いところまで、俺たち、みんなで泳いでやりますよ」

「大丈夫なのかね、君は確かピアニストじゃなかったっけ? 何だか、誰にもまして優男なんだよな」

 純一も、少し向きになって、佐千子の方を向き直る。

「やるよな。で、サセの方はなんか質問ある?」

 佐千子は頷くと、顔の前で両手を合わせた。

「おやつは、お汁粉でお願いします。あの、ごじべえさん特製の」

「なんだよ、いろいろ注文があるねー。君らもそれなりに年を取ったってわけだ」

 彼はそう言うと、ベンチから立ち上がった。
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