空しか、見えない
 波の音に消されないように、ごじべえのおじさんが湾を指さして大きな声で、説明する。

「君らが前に泳いだ頃は、ちょうどこの辺りから泳ぎ出て、潮の流れに乗って自然に帰ってくる形だったろう。でも、2時間の遠泳なら、まず潮の流れに逆らって、反対側まで泳ぎ出る。最後は、潮の流れに乗って帰ってくる。それなりに泳力は必要だよ」

「みんな、めいめい鍛えてるはずですから。まあ、ひとり、鍛えすぎちゃったのが出たんですけどね」

 渉外役の純一は、いつの間に用意したのか、小さなメモ帳に、ごじべえさんとの話をまとめている。
 佐千子は、バッグからカメラを取り出し、我らが海の写真を取った。

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