空しか、見えない

 純一の部屋は、白い壁に白いテーブルだ。ソファも白い。ひとつずつを選んだのは、婚約者の由乃である。

「これは何なの?」

 テーブルの上に載せられていたのは、警察署から送られてきた交通違反による罰金の納付書だった。

「ねえ、なぜ、アクアラインなんかに乗っていたの?」

 由乃は勝手に開封し、違反の時刻や場所まで、すでにわかっていた。

「そうだね、書いてある通りだろうね」

「この日、あなたは発表会のための打ち合わせに行くって出たわ。今度の会場は、そんなに遠くなのかしら」

「天気がよかったんだ。気が向いたから、ちょっとドライブしただけだよ」

 岩井の下見にいくとは、由乃には言っていなかった。とても、言えなかった。岩井やハッチについて言及するどころか、プールへ泳ぎに行くというだけで、機嫌が悪くなるのだ。
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