空しか、見えない
「もう、いいよ。由乃、婚約やめたっていいよ。こんな奴、やめたらいい。僕は君が思っていたような素敵な先生でもないんだよ」

 由乃の瞳が開き、赤く血走っていった。
 そして、いきなり拳を体に叩き付けてきた。その手首をつかみあげると、由乃の柔らかな体の感触が純一に押し付けられてきた。
 純一は、自分が口にした言葉とは裏腹に、体の中に猛々しさがこみ上げてくるのを覚えた。突き上げてくる波を抑えられなかった。由乃の着ていたブラウスの前を引きはがした。

「どうしてわからないの? 僕は由乃がこんなにも好きだよ」

「だったら、もう会わないで。昔の仲間に会うのも、泳ぐのもやめて。私の知らない純一さんにならないで」

「それは、そんなことは、」

 由乃の名を呼ぶ前に、唇が塞がれた。甘い息を感じ、後は無我夢中になった。熱した海のような由乃の体が、純一を丸ごと包んでしまう。

「わかったよ、約束する。俺、泳ぐのやめるよ。みんなには、ちゃんと話すから」

 純一は、今度こそ破るわけにはいかない約束を、ついに由乃としてしまった。

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