空しか、見えない

 子どもが寝静まり、ルーも仕事に出かけたあとの部屋に、安アパートの生活音が響く。上から、下から、いつもなら、ほとんど気にもならなかった音が、やけに耳に響く。
 のぞむは、手元にあった野球ボールを床の上で弾く。その音が、部屋の中で響いている。
 パソコンをクリックすると、画面いっぱいに、サセ新聞が広がった。
 真っ青な海の画像。

 2012 Iwaii

 Hawaii になぞらえて、iがふたつだ。
 それは確か昔、のぞむが教えてやった話だった。大学の卒業旅行には一緒にハワイに行きたいとか、ありふれたことをサセが言い出したから、ハワイっていうのは、本当はHawaiiって書くんだ。ハワイ島では、噴火が繰り返されて、たくさんの神秘的な歴史が眠る土地なんだよ、と知ったかぶりをした。サセの前で、精一杯大人になろうとしていた。
 サセは、きっとそんな話を覚えていてくれたのだろう。
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