空しか、見えない

第24話

【PM7：05】

　ふたたび、ジムで泳ぎ始めた千夏の横で、今日はフーちゃんこと芙佐絵が水飛沫をあげている。
　土曜日のスポーツジム、50mプールは建物の地下にある。会社帰りの会員たちの波も、この時間になると、さっと引いていく。連休を前にした、週末の夜だ、それぞれ、恋人だったり、家族のいる元へと帰っていくのだろう。一週間の仕事を終えて、ジムで汗を流し、シャワーを浴びて、これからゆっくり食事をとるのだろうか。
　千夏は、この時間にジムに居残るのが好きではない。幼い日の淡い記憶の中に、保育園時代の思い出がある。働いていた母は、お迎えの時間になっても、なかなか来てくれなかった。ひとり、ふたりと帰っていく園舎で、よく最後まで残り、黙って遊んでいたのが千夏だった。その頃は保母さん方に、千夏ちゃんは我慢強い子だとよく言われていたそうだ。