空しか、見えない
 ハッチの頃、夏休み前の調整の時期が一番、ハードに泳がされた。プールのレーンロープはすべて外され、バディごとに輪になって、何週も止まらずに泳いだ。互いの様子を見て、声をかけながら泳ぐ。先生方が、わざと波を立てるように、水中で大きな板を揺らしてくれた。
 ハッチのバディは、陽気な8人。環が先頭で、のぞむ、純一、最後は義朝、4人の男子に4人の女子が並んで泳いだ。

「波は、頬で受けるぞ。はい、右、左、そう、頬で受ける。正面で受けるばかがどこにいる。水を飲んでも、慌てるな。慣れる、慣れる」

 担任の先生の涸れた声が、蘇ってくる。女なのにショートカットで、声はがらがらで男みたいな先生だったなと思い出すだけで、水中で笑ってしまいそうになる。
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