空しか、見えない
「あと1本にしようか」

 並んだフーちゃんに指を立ててみせると、ゴーグルごしにフーちゃんもこちらを見て、こくりと頷いた。
 速度を落とし、ふたりで並び、同じペースで泳ぐ。

「結構、泳いだね。やっぱり、疲れるね」

 フーちゃんが、のんびりと水を掻きながら言う。実際の遠泳なら、こんなペースだ。

「だけど、サセどうしたんだろうね。遅いよね」

 壁にかけてある時計を見て、千夏も呟く。約束は午後7時だった。もう30分も過ぎている。いつもなら、約束の時間の10分前には必ず来ているようなサセだから、仕事でトラブルでも起きたのかもしれない。
< 601 / 700 >

この作品をシェア

pagetop