空しか、見えない
「何でよ、純一。日程の相談なら、私たち乗れるわよ」

 千夏は身を乗り出して、そう言ってみた。
 けれど純一は、大きな手の中でグラスを揺らしながら、まるでただその中のめぐる光を見つめるように瞳を揺らしていた。
 端正な横顔で、長い前髪は耳にかかっている。どこにも無駄な贅肉がない清潔な顔立ちは、昔と同じままだ。

「日程の問題じゃないらしいよ。ほら、だから純一さ、ちゃんと理由も話しなって」

 短気なはずの環の口調がやけに優しいのが、むしろ千夏を不安にさせた。まるで、怒る気力も残っていないといったふうだった。
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