空しか、見えない
「じゃあ言うね。由乃が、僕の婚約者が、どうしても遠泳に行くのに反対している。こうやって、ハッチのメンバーに会うのも、彼女は嫌がっている」

 そう言って腕時計を覗き込んだ純一を補足するように、佐千子が続けた。

「今日も、何とか出てきてもらったけど、純一ね、10時には必ず戻るって彼女に約束したんだって」

「10時って、シンデレラより早いじゃないの」

 千夏は鼻白み、苦笑混じりに言い放つ。

「どうして?」

 ネイルもしていない指で目頭を押さえたのは、芙佐絵だった。

「そんな理由、訊きたくなかった」

「泣いたりしないで、フーちゃん」

 佐千子が、横で彼女の背中をさすっている。
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