空しか、見えない
「のぞむだっていうのは、正解……、だけど、理由はよくわかんないんだよな、サセ。とにかくあいつは、たったひと言で、“ごめん、やっぱり、遠泳やれません”って、書いてきたってさ」

 環の吐き捨てるような言葉に、佐千子もそっと続ける。

「あとひと言あったけどね。すんません、だそうです」

 環は、唇を噛んだ。

「みんな何やってるんだよって言いたいけど、当の俺だって、こんなザマで、この夏までに間に合いそうもない。女子のみんなには悪いけど、今年の遠泳は中止かなって思う」

 環はそう言うと、握っていた拳を解き、グラスの中のウィスキーを一気にあけた。
 その横で、純一も静かに手の中のグラスをあおった。
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