空しか、見えない
「だけど、どうしたの? まさか、僕がいないとうまく泳げなかったとか?」

 そう言って、眼鏡のフレームに指をかける。

「まさか」

 芙佐絵がしかめっ面になると、吉本は言う。

「じゃ、何だって言うんだよ?」

 店主が、吉本のコートを受け取り、代わりに熱いおしぼりを渡す。

「まあ、こちらへどうぞ。よかったら、芙佐絵さんも、席を移りますか?」

 吉本はお約束のように、顔と眼鏡のレンズを拭う。
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