空しか、見えない
 芙佐絵はその様子に肩をすくめて、千夏やサセを見やる。もう、卒倒しそうに嫌でしょう? とでも言っているように、目玉をひっくり返すような顔つきをして見せる。

「えーっと、とりあえず私は、お腹が空いてしまっていまして。なんだ、この娼婦風パスタって美味しそうだな」

 壁にかかったメニューの白墨の文字を指さしながら言う。
 マイペースな吉本の登場に、はじめ環が思わず堪えきれないように吹き出し、佐千子も続いて笑った。芙佐絵も、ため息混じりに笑った。
 千夏は、笑ったというより、感動したに近かった。胸が熱くなった。
 急に、芙佐絵を羨ましいと感じた。
 フーちゃんは、ついに見つけたのだ。ハッチのメンバーの中ではじめて、こうやって、ごく自然に自分たちの仲間になってくれる相手を、見つけた。
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