空しか、見えない
「私なんか、ほら、もう半分お尻がバスの方へ向かってるでしょう? 叱られるの、嫌いだったんだよね。だけど、義朝のあの、こだわりは、何だったんだろう。犬とおじさんを真ん中にして、シャッターは、宿の上手な人にちゃんと押してもらうんだとか言ってさ。なんでだっけ? でも、体育の真田も入ってるね、この写真」

 芙佐絵もそのときを思い出したのか、前のめりになって、指をさす。

「犬の名前は、なんだったっけ? ゴジ、ゴン、じゃなくて‥‥うーんと」

 千夏の声に、佐千子がすぐに返した。

「ゴスケだったね。ごじべえのゴスケ。賢かったし、海では、ずいぶん泳げる犬だったんだよね」

「そういや、ゴスケ、この間、いなかったよね?」

 環の言葉に、千夏が返す。

「そりゃそうだよ。もうあれから10年も経っているんだからさ」

「それにしてもすごい青空ですね、ここは」

 吉本まで立ち上がって、みんなの後ろから、覗き込んできた。
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