空しか、見えない
 外に出ると、行き交う車のライトが目をさしてくる。タクシーを拾い、後部シートに座り、由乃が待つ、ふたりの住まいの住所を告げた。
 マンションの3LDK、そのうち二部屋はそれぞれのピアノ室だ。白い壁に、むき出しの針を打ちつけた時計が、今頃じりじりと残りの時刻を刻んでいるだろう。

「すみません、急いでください」

「ちょっと、道が混んでるんだよね」

 運転手の声に、純一は小さくため息をつく。携帯電話を取り出そうとパンツのポケットに手をかけたが、自分で首を横に振った。
 代わりに、手にしていた写真を見た。

「いいですよー、お客さん、後ろ、ライトつけても」

 バックミラーを覗きながら、運転手がおおらかな口調で言う。

「あ、いや、いいんです」

 窓から差し込む外の灯りが、薄ぼんやりと写真を映し出していた。
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