空しか、見えない
「そんな話じゃない。どうして、そんなに悲しそうな顔をしているのか訊いているの。どうしてそんなに、その仲間が大切なの? あなたのそんな悲しい顔を見るの、私、はじめて」

 純一は、靴を脱ぎ、由乃の立つ場所まで進んだ。泣いていた頬を指で拭い、口づけすると、涙の味がした。やはり柔らかくて、そうして触れただけで、由乃がほしくなった。衣服をはぎとって、胸のふくらみや温もりを手のひらいっぱいに感じたくなった。
 けれど純一は、そのまま自室へと入った。
 扉を閉めて、仮眠用のシングルベッドの上に、ひとりで仰向けになった。
 目をつぶると、またあの写真が思い浮かび、みんなの高い声が響いてくるのだった。
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