空しか、見えない
 そんな佐千子の不安を跳ね返すように、環はさらに意外なことを口にした。

「吉本さん、お願いします。俺ら、ふがいない野郎たちに変わって、女子たちのこと、先導してもらえませんか?」

「私が?」

 鼻先を自分でぐいと指さす。みんな、その様子が可笑しくて、また笑ってしまう。芙佐絵は、げんなりしたように、より目してみせる。フーちゃんの、とても懐かしい子どもの頃の癖だ。

「頼みます。俺も、なんとかリハビリがんばりますから」

「それで環は、晴れてサセにプロポーズするってわけ?」

 千夏が、鼻をならしながら言う。
 環はそれには返事をせず、まゆみにグラスを滑らせ、バーボンのお替わりを頼んだ。

「いざとなったら、ごじべえのおじさんも泳いでくれるって言ってたわ。純一が、頼んだんだけど」

 佐千子は、この間の岩井の下見のやり取りを思いだしながら続けた。あの時までは、純一だって、あんなに張り切っていたはずなのに。
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