空しか、見えない
「その質問ね、よくのぞむにも……いたでしょう? うちにもよく来ていた同級生。彼にも聞かれたんだ。ただ聞かれているだけなのに、なんだかこっちはむきになってしまって、あれこれ答えていた気がする」

「いや、俺の質問には、別に深い意味はないんだけどな」

 のぞむの質問にだって、就職活動の面接官にだってなかったのだろう。
 でも、佐千子がむきになったのは、新聞記者志望の同期たちが、眩しく見えていたからだった。マスコミ研究会には、二代、三代にわたる記者一族の子どもたちも珍しくなかった。親ではなくても、新聞記者の叔父に憧れて育った、というような話を、みんな当たり前のように繰り広げた。
 新聞社が、そんな風に関係者ばかりで成り立つはずもないし、人の環境を羨んだって仕方がないのに、佐千子は面接で失敗するたびに、自分の実力のなさを環境のせいにした、そんな時期だった。

「お前の書いた記事、俺だって、少しくらいは読ませてほしいね」

「別にいいって、繊維業界のことなんて……、そうだよね、読んでもらえばいいんだよね。ごめんね、お父さん」

「なんで謝る?」

「だって私って、なんだかいつも可愛くないでしょう」

「バカ言うな。で、いつ来るんだ?」

 父が、苦笑混じりにそう訊いてきた。

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