空しか、見えない
 そのときになってふと、果たして純一の婚約者は、どんな気持ちでいたのだろうと、佐千子は思い当たった。彼が運転する車の助手席に、ハッチの仲間である女子たちが乗るのは嫌だったかもしれない。純一は、ちゃんと彼女にも告げて出かけていたのだろうか。
 後になってわかることもあると、佐千子は実感しながら、LINEの画面をしばらく見つめていた。
 そのとき、ぽつんと一点画面が動き、既読の数が増えた。
 あなたは誰ですか? 手の中のiPhoneに、そう呼びかけてみる。
 ニューヨークののぞむは、読んでいるのだろうか。みんなのこんなやり取りは、もう子どもじみていて嫌なのだろうか。
 そもそも、膵炎の治療は、すべて終了したのだろうか。
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