空しか、見えない
到着予想時刻を逆算し、その日は午後の3時には鎌倉を出発した。ボトルスタンドにマリカと自分の分の水を2本さし、首都高から湾岸線へと入る。
高速のゲートをくぐったときには、全身を冷や汗が伝ったが、やがて落ち着いた。
「いいか、佐千子。とにかく、不安になったら、ゆっくり進んでみたらいいんだ。道を間違えたら、また別の道を探せばいいんだからな、慌てるな」
まるで人生訓のような父の言葉を反芻しながら、ハンドルをきつく握りしめる。
4ドアのおじさんくさい日本車で、座席にはご丁寧にフェイクファーの座布団までついている。
でも、この車で妹の美知も運転を覚え、自分もはじめて高速に乗っている。
「成田の出口は、空港と市内の分岐、間違えちゃだめだよ」
美知も、出がけに、そう教えてくれた。
父は誰を迎えに行くのかとも訊かなかったから、中学時代のハッチのメンバーを迎えに行くのだと自分から話した。
「ああ、この間の氷砂糖の?」
父は昨年の出来事を思い出したようだ。そして、つけ加えた。
「旧交を温めるって奴だな。佐千はよかったな。お前は、広い海で泳いで、一生の友達を見つけたんだな」