空しか、見えない

第28話

 昨夜までの雨とは打って変わり、早朝から清涼な空が広がろうとしていた。
 佐千子は、実家の窓を開き、見上げた空の向こうに義朝の得意の表情を思い起こした。どこか、照れ笑いしているような、力の抜けた表情だ。それだけで、胸にこみ上げてくるものがあった。

「行ってきます。4日間も車を借りてしまうけど、心配しないで」

「えーよこーらい! がんばれー、姉貴」

 いつもならまだ寝ているはずの妹が、パジャマ姿のまま、2階から降りてきて、佐千子の食べ残したトーストをつまんでいる。
 懐かしいかけ声を口にして、親指を立てた。
 その横で、父親が静かに頷いてくれる。
< 665 / 700 >

この作品をシェア

pagetop