空しか、見えない
「おうい、こっち、こっち」

 手招きしながら、環は、今日はリュックを背負っている。
 何だかみんな明るい表情をしている。今日の空と同じように、清々しい顔だ、と佐千子は思う。
 車を停めると、助手席に環が、後部座席に女子たち全員が乗り込んだ。

「サセに運転してもらって岩井へ行くなんて、考えもしなかったな」

 中央にこじんまり座って、マリカが言う。

「予定通り帰ってきてくれて、よかった。みんな体調も万全って顔してるし」

 バックミラーを覗き込みながら、佐千子は言う。

「俺も泳げるからねー。ついに、外れたもんねー」

「この間のサセ新聞、すごかったですね。環さんのギプスが外れるところの写真が掲載されていて」

「はい、一応新聞記者ですから」

 後部座席からのまゆみの呼びかけにも、佐千子は答える余裕がある。

「ねえ、それにしても何だかこの車の中、甘い匂いがしない?」

 朝から隙のないメークをしたマリカが、車内で鼻先を動かしている。

「確かに、いい匂い。何かしら」

 ショートヘアの耳元にだけきらりと光るピアスをつけたまゆみも、その横で真似をする。
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