空しか、見えない
 高速を降り、11月にも通った道の駅を通り過ぎる。のぞむと千夏が、高速バスから降りてきた待ち合わせた場所だ。
 あの時は雨だった。のぞむは、ひげだらけの顔で革ジャンを羽織っていた。久しぶりに会うのに、「よお、元気だった?」と、当たり前のように挨拶されたのだった。
 岩井の町へと入っていく。
 駅前の道から海岸へ向かうと、路地と路地が幾つも交差する。路地の至るところを覆い尽くすように、大小様々な民宿が立ち並んでいる。
 11月に来たときとも、この間純一と打ち合わせに来たときとも違い、どの路地からも、子どもたちが列になって溢れてくる。紺色の水着姿の一群、色違いの水泳帽をかぶって歩く一群、今バスが到着したばかりなのか、大きな荷物を重そうに引きずる、夏の制服姿の子どもたちもいる。
 窓を全開にすると、調子はずれの吹奏楽の音も聞こえてくる。
< 673 / 700 >

この作品をシェア

pagetop