空しか、見えない
「なあ、これ、サセが持ってきたのか?」

 環が、おしゃもじを持ち上げて見せた。

「これって?」

 何気なく振り向くと、彼の手のおしゃもじには、信じられないことにこう書いてあった。

〈No.2 遠藤のぞむ〉

「ねえ、こっちにも」

 そう言った、フーちゃんが持ち上げたおしゃもじにはこうあった。

〈No.6 田島純一〉

「どういうこと?」

 マリカが周囲を見渡す。水着を干した窓から下を眺め、「Wow!」と、彼女は表情を綻ばせた。

「Big surprise!」

「何なの?」

 千夏や、フーちゃんも一斉に窓のところへ駆け寄る。環もその上から覆いかぶさるようにして下を眺め、ふーっとため息をつき、両肩を上げる。そして、佐千子の方を見た。

「やっぱりだった。予想した通りだった」

 その声に、ん? と、環の方を見る。黒々とした目が、佐千子を見て揺れている。
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