空しか、見えない
――純一を連れてきてくれたのも、のぞむなの?

――別に、連れてきたわけじゃないよ。ただ、誘っただけだ。ひとりは気まずいから、一緒に行こうって言ってみたんだ。

――傍に婚約者は、いなかったの? 純一が来るのは、彼女がどうしても反対だったから。

――そうだったらしいけど、たぶん、ちょっとした誤解から始まったんだよ。なんかふたりはいろいろ話し合ったらしいよ。出発のときは、少し泣いていたみたいだったけど、玄関先で、ちゃんと泳げたら電話してって言ってたかな。待ってるからって。純一も、それで少し安心したみたいな顔してたかな。

――だったら、よかったね。純一も、心置きなく泳げるかな。

 深い青の空を映し込んだ水。泳いでいると、どこまでも、果てしなく続いているように見える。
 すでに水底から水面までの深さは、身ふたつ分は越えたろうか。一気に水が冷え、足もとに海藻がちらつき始めた。
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